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それを経験する人自身を映し出す鏡としての建築、渡辺光の「希望としての建築」
2012年度に<卒業研究小形グループ>として担当した、渡辺光くんのプロジェクトが、大学代表として掲載されています。その前年の特集号には、同じく私たちのグループの柳橋さんのプロジェクトが掲載されました。 学生達の静かな知的興奮とともに、自分自身も多くのことを発見/再発見し/考えることができる充実した1年間を毎年過ごしています。 大学での私たちのグループの成果はこちら: そこにしかないもの で見ていただけます。 4月からスタートし翌年1月までの間に、どのようなプロセスを経て最終的な成果物が出来上がっていくのかや、その間の学生達の考えの深化過程を記録しています。 現在8年目が進行中です。 以下に渡辺光くんのプロジェクトについて<推薦のことば>として書いたものを転載します。 ------------------------------------------ 「希望としての建築」と名付けられたこのプロジェクトは、人が生きるということは如何なる事か、建築はそこでどのような役割を果たすのかという問いに、真摯に立ち向かった過程の豊かさがもたらした成果である。 プロジェクトの端緒となった友の死は、大きな問いを渡辺に突きつけた。主を失いながらも両親によって生前のまま残された部屋、今も現実に感じることができる友の気配、あたかもまだ主がいるように振舞う光や空気の震えがそこにはあった。この事実をどのように考えればよいのか。渡辺はじっくりと時間をかけながら、この問いの答えを探し続けた。 計画それ自体は私的な住宅であるが、建築が有する古来の言語が、この住宅で起こった出来事や家族の暮らしを年代記としてつなぎ、同時に私たちの眼差しをそこに重ねる。単純さやわかりやすさが重視される世界が私たちを取り巻いているとするなら、このプロジェクトはそれとは異質な場所へと私たちを送り出す。 図面やスケッチに表された気配や光や風にじっくりと感じ入ることによって、初めて「物語」が姿を現す。そしてそれは各々の心の中でそれぞれの「建築」を建ち上げる力となる。渡辺はそこに現れるものこそが「希望としての建築」であると考えたようだ。 このプロジェクトは、個人の体験や経験の豊かさの意義を肯定するという意味で現代社会に対して批評的であり、更には、これを経験する人を映し出す鏡にもなっているのである。
by prospect-news
| 2013-06-05 16:09
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